Case Study

「預金の払戻し請求の権利」

通帳と銀行印等を盗まれてしまい、被害者が気がついていない間に、預金を払い戻されてしまった場合の法律上の問題です。
 有る者が、銀行通帳や銀行印を持参して、銀行の窓口から払戻しを受けた場合、その通帳等が盗まれたものであったとしても、銀行が払戻し請求者を過失なく信用した場合には、払戻しは有効とされ、銀行も免責されます(民法478条)。
 しかし、銀行に過失があったという判断がされた場合には、銀行は免責されません。そうなると、通帳等を盗まれた本来の名義人が預金の払戻しの請求をしてきた場合には、銀行はこれに応じて支払いをしなければならないということになります。
 最近では、更に複雑な事例が起きています。留守宅から、夫と妻それぞれの預金通帳と銀行印などが盗まれたのですが、犯人は、まず、夫の定期預金の1100万円を解約した上で、一旦これを別の銀行の妻名義の普通預金口座に振り込み、その後、妻の口座からこの1100万円を払い戻して、これを盗んだのですが、妻は自分の口座のある銀行に対して、1100万円の払戻しを求めました。1審の裁判所では、銀行に過失があったとして、妻からの払戻し請求を認めました。しかし、高等裁判所は、妻には夫の口座から勝手に振り込まれた1100万円について、銀行に対し払戻し請求をする権利がもともとあったのかという問題があることを指摘し、妻の請求は権利の濫用であるとして、1審の判決を取り消しました。
 この判断の前提として、高等裁判所は、振込依頼人(夫)から受取人(妻)の銀行口座に振込があった場合には、夫と妻との間に振込みをすべき理由(原因関係)がなくても、妻は銀行との間で普通預金契約が成立しており、妻は、預金額の債権を取得しているということを認めた上で、この1100万円は本来、振込依頼人等に返還すべきものであるから、これを自分のものとして銀行に払戻し請求をするのは権利の濫用であるという判断をしたものです(なお、誤って振込まれたものであることを知りながら、これを隠して払戻し請求をして払戻しを受けた場合には、詐欺罪が成立するという判断をした刑事事件の判決もあります)。
 しかし、最高裁判所では、妻の請求は権利の濫用には当たらないとして、この高等裁判所の判決を破棄しました。その理由は、妻が払戻しを受けることは、詐欺罪等の犯行の一環を成す場合などの、著しく正義に反するようなものとは言えないというものです。
 その上で、最高裁は、犯人に対する払戻しについて銀行に過失があると言えるかどうかについては更に審理が必要として、高等裁判所への審理の差し戻しをしています。
 このケースでは、夫のほうからも、自分の口座のある銀行に対して払戻し請求をしているようですので、夫婦で二重に預金の払戻しを受けてしまう危険や、夫の口座のある銀行と妻の口座のある銀行との責任の配分などの問題点も指摘されています。