Case Study

「遺言書作成の諸問題」

 遺言者に言語・聴覚機能の障害がある場合に、遺言書の作成をどうするかという問題があります。
遺言には、自筆により作成する自筆証書遺言と、公正人が作成する公正証書遺言がありますが、公正証書遺言には、①遺言者が遺言の趣旨を公証人の面前で口授すること、②公証人が遺言の口授を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、または閲覧させること、という要件があるため、言語や聴覚に障害がある場合には、公正証書遺言は作成できないと以前は考えられていました。
しかし、手話が普及し、口述によらなくとも遺言の趣旨を公証人に伝えることが可能であることが広く知られるようになったことから、このような障害を持っている人の公正証書遺言の利用を可能にするため、平成11年に民法が改正され、以下のような特則が設けられました。
まず、言語機能障害者(民法では「口のきけない者」とされ、全く発話できない人や、聴覚障害のために発話が不明瞭な人、また病気や高齢により発音が不明瞭で良く聞き取れない人も含まれると解されています)が公正証書遺言を作成するときは、公証人及び証人の面前で、遺言の趣旨を、「通訳人の通訳による申述」または「自書」することにより、「口述」に代えることができます。
 なお、この場合の「通訳人」は、手話通訳士などの資格保有者に限らず、遺言者の意思を確実に外の人に伝える能力がある者であれば足りるとされており、手話のほか、読唇、指点字などの方法による通訳も含まれます。
 例えば、瞬きの回数や、手や指の握り方など、遺言者が周囲と意思疎通を図るために独自にとっている方法であっても、内容の正確性を遺言者が確認することが可能である限り、通訳による申述と考えることが出来るとされています。 
 条文においても、単に「通訳人」という表現になっており、手話ができない人も制度を利用することが出来るように、「手話通訳人」などと限定していないという解釈がされています。
通訳人が手話通訳の資格保有者でなく、遺言者のヘルパーであったケースでも、それまで長年に渡り遺言者の意思を外に伝えていた実績等も加味され、広い意味での通訳人に当たると認めた判例があります。
 また、「自書」については、公証人及び証人の面前でするものですから、ワープロ等で文字を打ってプリントしたものや、パソコンのモニター画面に表示する方法も、自書と考えることが出来るという解釈も出されています。
そして、聴覚機能障害者(民法では「耳が聞こえない者」とされ、病気や老齢などで聴力が著しく低下した人も広く含むと解されています)が公正証書遺言を作成する際には、公証人が筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者または証人に伝えることで、「読み聞かせ」に代えることができますが、公証人が遺言書の内容を筆記したものを、遺言者に「閲覧」させる方法によることもできます。どちらを選択するかは公証人の選択によりますが、正確性を高めるために、両方を併用することもできます。