Case Study

「借地借家契約の明け渡しの正当事由(3)

店舗などの貸主(賃貸人)が建物を自分で使用するために、賃借人・借家人に対して明け渡しを求めて裁判で争った際、その正当事由が認められなかった事例を見ていきます。
 正当事由の有無が争われた場合には、賃貸人・賃借人双方の事情について、裁判所が仔細に検討・判断をすることになりますが、借家人が賃借中の建物で、生活の基盤である仕事を営んでおり、容易に転居できない事情がある場合には、正当事由が具備しないとして、明け渡しの請求が認められなかったという例があります。
 そうすると、明け渡しを請求する側がたとえ適当と思われる立退料を提示したとしても、明け渡しの請求は棄却されることになります。
 具体的には、次のようなケースです。

例1)請求側の文具店が、自分の店舗が手狭になったため、別に所有する賃貸中の建物の借主に対して明け渡しを求めましたが、その賃借店舗で婦人服販売業を営んでいる借主は、約15年にわたり固定客の獲得に努め順次売り上げを安定させており、また私鉄駅から20メートルの至近距離で商店街の一角にあるという恵まれた立地条件から大手メーカーからも販売店の指定を受けている等の事情から、同店舗と同様の場所を他に求めることは極めて困難で、明け渡しは死活問題であるという判断がされましたが、他方請求側の事情はそれほどではないことから、両者の間の必要の度合いには格段の差があり、補完事由として金300万円の立退料の提供があっても、必要性の差を埋めることは出来ず、正当事由が具備するとはいえないとして、請求が棄却されました。

例2)請求側の整形外科医が、自分の病院が手狭になったため、ビルを購入して病院を拡張しようとし、ビルでもともと医薬品を販売していた業者に対して更新を拒絶した上、明け渡しの正当事由を主張して裁判をしましたが、借主はすでにこの場所で20年以上も医薬品販売業を営んでおり、他にも4店舗を有しているものの、この店舗が本店であり収益率も最も高く、他に適当な店舗が見当たらず、この店舗が廃業になれば莫大な損害を受けることなどから、医師側から補完事由として金600万円の提示が為されても、その更新拒絶・明け渡し請求には正当事由が認められないとして、請求が棄却されました。
 文具店のケースは、立退料の提供は正当事由の補強にすぎず、正当事由がなければ、裁判所が立退料を定めて明け渡しを認めることもできないという判例です。
 病院のケースは、請求の理由が単なる自己都合の営業の拡張に過ぎない上、ほかに解消する方法も考えられる一方、賃借人にとっては廃業も有り得る死活問題であることから、立退料の提供による補強事由も問題とせずに、正当事由が否定されたものです。