Case Study

「借家の明け渡しの正当事由(2)」

前号では、マンションやアパート、店舗などの貸主(賃貸人)が建物を自分で使用するために、賃借人・借家人に対して明け渡しを求めるためには、借地借家法で正当事由が必要とされており、正当事由の有無が争われた場合には、賃貸人と賃借人双方の事情を仔細に検討し、裁判所が判断するとの説明をしました。
 今回は、賃貸人と賃借人の利害が特に大きい店舗などに関する明け渡しの正当事由の具体例を見ることにします。

1、 建物の老朽化や建替の必要性

①繁華街の交差点付近のビルの所有者が、ディスコを経営していた賃借人に対して、建物が老朽化して建築基準法に反していることや土地の高度利用のためにも建替えが必要であるとして明け渡しを求めた事例では、賃借人側が、店舗の一部を改修して間もないことや、多数の従業員の雇用の問題や営業上の損失などを主張したため、裁判所はこれを考慮し、正当事由の補完として賃貸人が4億円を提示することで、明け渡しを認めました。

②服飾等の専門学校の経営者である賃貸人が、建物の老朽化と校舎の建替に必要として、建物の一部で食堂を経営する賃借人に明け渡しを求めた事例では、建物が建築後35年経って相当傷んでいることや、若年層を対象にした校舎を建て替える計画には相当の合理性があることから、明け渡しの正当理由があるとされた一方、食堂の方についても、長年経営していて代替店舗を見つけることが困難であることなどから、家賃の2年分(2640万円)という賃貸人からの正当事由の補完事由の申し出に対して、慎重な検討の結果、明け渡しによる減収分を考慮し、4000万円の立退料の提供を条件として明け渡しを認めました。

2、 土地の有効利用・高度利用の必要性

①賃貸人が所有する建物を取り壊した上、所有する周辺土地を一体として大規模駐車場ビルの建設を計画し、建物内で薬局を経営している賃借人に明け渡しを求めた事案では、目的土地が駅周辺であることから、企業としての経済的合理性や計画の社会的有用性を認め、賃借人に対して、営業の中断により生じる営業損失と新規店舗を賃借するための保証金等の費用を考慮し、9000万円を立退料として提供することにより正当事由が認められるとして、明け渡しを認めました。

②再開発のため、ビル全体を買い受け、賃貸人の地位を承継した会社が、本社ビルの建築を計画し、料理店を約25年間経営していた店主に明け渡しを求めた事案では、企業経営として合理的な判断であり、また周辺のビル化や土地の高度利用の必要性から、再開発も合理的であるとした上で、店側についても、固定客が長年定着しており、簡単に代替物件を見つけることは困難であるが、明け渡しによる経済的不利益については金1億5000万円の立退料の提供により補完されるとして、明け渡しを認めました。

 なお、裁判所としては、多くの事案で、賃貸人かあるいは賃借人から借家権価格の鑑定評価書を提出させて、正当事由の補完事由としての立退料を判断する資料としています