Case Study

「借家の明け渡しの正当事由(1)」

マンション・アパートや店舗などの貸主(賃貸人)が、建物を自分で使用したいなどの事情の変更があったために、借家人・賃借人に対して明け渡しを求める際の問題です。
 この点、借地借家法では、賃貸人の賃借人に対する賃貸借契約の更新の拒絶や解約の申し入れには、正当事由のあることが要求されています。
 具体的には、①建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情、②建物の賃貸借に関する従前の経過、③建物の利用状況や現況、④明け渡しの条件として財産上の給付をする旨の申し出をした場合にはその申し出、などが考慮されます。
 そこで、賃貸人側の更新拒絶や解約申し入れが認められるためには、これら各事項の総合的な事情を考慮し、正当事由が存在することが必要となっています。
 では、各項の中で、正当事由の判断の基本的事項となる①自己使用の必要性と、④財産給付の申し出とは、どのようなことなのか、判例に現われた事例を探ってみます。

1)貸主には息子がおり、息子が結婚するまでのつもりで家を貸していたところ、数年で息子が結婚することになったので、借主に明け渡しを求めたというケースでは、借家で通信販売を営んでいた借主の事情も考慮し、貸主の金100万円の移転料の申し出により営業上の損失は回避できるとして、正当事由が認められました。

2)マンションの一部屋を渡米の間だけとの約束で貸していた貸主が、帰国後に明け渡しを求めたケースでは、長期間借り受けることができると考えた借主が内装費用として金350万円を支出していましたが、貸主の自己使用の必要性の強さと、賃貸借契約の従前の経過から、立退料なしで正当事由が認められました。

3)持ち家を貸して、自分は夫の社宅に居住していた貸主が、夫が病気で会社を退職したため社宅を明け渡すことになり、住居を借りる経済的余裕がないので、自己使用の必要が強く生じたことに加え、更に、300万円の立退料の提供をして更新を拒絶した件では、借主の方にも経済的余裕がなく家族内に病気療養中の者もいたことなどの事情から、裁判所は、500万円の立退料の提供があれば正当事由があると判断しました。

 これらの事例は、比較的分かりやすい例ですが、借主側が営業店舗を借りていた場合には、考慮する要素が多くなり、正当事由を認めるための財産上の給付も多額になります。