Case Study

「遺言執行者」

公正証書の遺言書には、「遺言執行者」が指定されている場合があります。具体例としては、次のようなものです。

 第1条(相続財産) 遺言者甲野某は、相続開始の際に保有する財産全部を、遺言者の長男甲野太郎(昭和○年○○月○○日生)に対して相続させる。
 第2条(遺言者執行者の指定) 遺言者甲野某は、この遺言の執行者として以下の者を指定する。住所東京都港区六本木○-○-○ 職業会社員 氏名乙川一郎
 そこで乙川氏は、遺言者の死亡により、遺言執行者に就任することになりますが、就任を拒否することもできます。
 遺言執行者の仕事は、遺言者に代わって遺言の内容を実現することです。例えば、相続財産に不動産があれば遺言者から甲野太郎氏への名義変更の登記手続を実行したり、預金があれば解約して引き渡す手続を行なうなど、言わば遺言者の代理人的な立場で行動することになります。
 しかし民法では、遺言執行者の立場については、「遺言者」ではなく「相続人」の代理人であるとの規定があり、この例で言うと乙川氏は、遺言者ではなく甲野太郎氏の代理人であるということです。遺言が効力を生じた時点では、遺言者は既に死亡して人格を失っていますので、実質的にはそうであっても、法的には遺言者の代理人にはなれないことから、このような規定が置かれたと言われています。
 よって遺言執行者は、相続人のために、委任を受けた場合と同じように、善良な管理者の注意をもって相続財産を管理することになります。
 そして、遺言執行者が就任した場合には、その旨の通知を相続人全員(実際に財産を相続する甲野太郎氏だけでなく、法定相続人がいればその全員)に交付し、また遺言書の謄本等も同様に交付します。そして、その後は遅滞なく財産目録を作成して、同様に交付する義務があります。
 この例で、遺言者に妻ともう1人の子供(二男)がいた場合には、法定相続人は3人になり、その全員が遺言書を目にすることになりますが、妻や二男は全く相続財産を貰えないという内容なので、遺留分権が侵害されたという理由で、遺留分減殺請求権を行使してくることも考えられます。法定相続割合は妻が1/2、二男が1/4ですから、その半分の妻2/8、二男1/8について遺留分がありますので、遺留分減殺請求権を行使すれば、遺言の内容は、長男が100%だったものが8分の5、妻が2/8、二男1/8という割合で分割されることになります。
 なお、遺留分を有するのは、兄弟姉妹を除く法定相続人(配偶者、子、直系尊属)のみで、相続放棄や廃除によって相続権を失った者は、問題になりません。
 また、このような事例では、遺言執行者の乙川氏が、甲野太郎氏と親しい間柄にあり、太郎氏に特別に加担していると見られる場合には、遺言執行者の解任事由になるという判例もありますので、遺言執行の任務は、公平中立で行なう必要があると言われています。
 なお、遺言の内容が、子の認知である場合には、戸籍への届出は、相続人では出来ず、遺言執行者が行なうものとされています。